この頃のナーギニーは、砂の城に到着して以来一番の幸せを噛み締めていたのかもしれない。

 シュリーが無事に戻ってきた! 彼女の笑顔は自分の笑顔の、まるで着火剤のようだった。

 あれからシュリーは冷めた夕食をとても美味しそうに平らげた。初めての食事にあの人参ケーキ(ガジャール・ハロワ)を見つけたが、シュリーの手作りの方がずっと美味しかったこと、毎朝シマリスがバルコニーに現れて、今朝はナッツを慌てて頬張り帰っていったこと……そしてマントの持ち主がシャニの血の繋がらない息子であったこと、夕食後にインドコブラを介して彼と二度も会話が出来たこと……いつの間にか食事の手を止めさせてしまうほど興奮気味に語ったナーギニーを、シュリーは頷きながら微笑ましく見つめた。

 明日の予定に影響してはいけないと、シュリーは小一時間で侍女の寝所(しんじょ)へ戻ってしまったが、少女が見つけた裁縫道具を手に取り、明晩から刺繍と舞踊――あの大会でシュリーが踊ったバラタナーティアム――の稽古をつけてあげると約束をした。日中は侍女に身をやつし、この城のことを探りたいのだという。シュリーもやはり此処で働く民衆の様子が気にかかったらしかった。