思った通り、危惧した通り、砂時計の中の砂粒が流れ落ちるが如く、イシャーナとの時間は二人の間をすばやく吹き抜け、息つく間もなく引き離してしまった。

 ナーギニーが伝えられたのは、今日の出来事と明日の予定のみだ。それでもイシャーナは話された内容から、幾つかのアドバイスを与えてくれた。明日の午前は黒宮側の庭園を巡ることになっている。ならば西の庭園で自由時間となる筈だから、王宮に近い東の木立の、河から三番目の沙羅双樹(シャラノキ)を注意して一回りしてほしいとのこと。きっと面白い物が見られるよ、と微かに含み笑いをしながら、其処に人工の物が見つけられたら君に持ち帰ってほしい、とも告げた。

 昼食会の後の午後は、ゾウに乗せられて街を巡るのだそうだ。それに対しては出来るならゾウの後方、左側に腰掛けることを勧められた。

 今回は隣室の戸が開けられた気配で、ナーガラージャが逃げてしまい終わりとなった。そのためナーギニーは別れの挨拶すら伝えることは叶わなかった。小さな声で急ぎ「おやすみなさいませ」とは呟いたものの、もうその時には見えない所まで降りてしまったナーガラージャには、きっと届かなかったに違いない。明晩の約束すら貰えなかったナーギニーは、僅かながら哀しみの溜息を零し、部屋に戻るや枕に顔を(うず)めてしまった。