「そ……でした、か……」

 徐々に苦悩を顕わにする(かす)れた声に、ナーギニーもまた同じ声色で応えることしか出来なかった。母親を人質に獲られたも同然の逃れられない状況。今までにも今日のような仕打ちは幾度もあったのかもしれない。

『ごめん……こんなつまらない話を。ええと……もう旅の疲れは取れたかい? 部屋も快適なら良いのだけど』

 それきり押し黙ってしまった少女に、イシャーナも居たたまれなくなったのだろう、刹那にワントーン高い明るい声を上げ質問をした。同時にナーギニーも俯いてしまった(おもて)を戻し、喉元に力を込めた。

「は、はいっ。お食事の後に少し休めたお陰で、随分元気になりました。お部屋も私にはもったいないくらいです」

 少々慌て気味ではあったが、自分の伝えたいことが唇からスルスルと飛び出したことに、ナーギニーは自身でも驚いていた。けれどもしも目の前で相対しているのがナーガラージャでなく、イシャーナであったのならどうなのだろう? 彼の柔らかい微笑みを見つめながら、滑らかな語らいは出来るのだろうか?