黙りこくってしまったほんの数秒、漂う沈黙を(とが)めるように、二人の間に挟まれた夜空が、一筋の光をもたらした――箒星(ほうきぼし)。暗がりが一瞬強い輝きを放ったことに、ナーギニーは驚いてハッと顔を上げる。見えたのは流れゆく尾の端だけであったが、それは金色の飛沫(しぶき)のように、辺りに舞い散り消え去った。

『この空は偽物だけど……本物でもあるんだ』

「え?」

 見上げた視線を僅かに下げて、尖塔(ミナレット)のバルコニーを捉える。イシャーナの影は流星の後を追うように、その横顔はまだ仰いでいるようだった。

『遥か昔、海が砂で満たされていなかった時代、空は澄んで数多(あまた)の星が瞬いていた。さっき流れていった星の欠片(カケラ)も、時によっては雨のように降り注いだそうだよ。そんな失われた過去をこの空が映し出している……造り物ではあるけれど、夢の産物ではない。(いにしえ)の世に実在したものなんだ』

「この空が……」

 優しく語りかけるイシャーナの声に、ナーギニーは改めて星空を見上げた。アグラの街でも見られなかった訳ではないが、これほど沢山の星々が一度に現れたことはない。閉じ込められていた自分だからこそ知らないのだと思わされていた事実は……本当は誰もが知らないのかもしれない。それは何故だかとても不思議に思えた。