このシャニの質問には少女達もナーギニーも、そしてイシャーナさえもが驚きを示した。……が、イシャーナはしばし口を閉ざし、誰も名指しをすることはなかった。

「有難き幸せです、父上。ですが……皆様同等にお美しく比べようもないというもの……わたくしなどに選べる権利はございません」

 ナーギニーは他の少女が選ばれなかったことに安堵し、と同時にそう答えた彼の声が、苦しみを含んでいることを察した。

「たった一人も選べぬとは、お前は意気地(いくじ)がないのだな。もちろん……お前が選んだ女性こそを、私が(めと)るつもりだと気付いたからであろう? 勘の鋭い奴だ……!」

 シャニはそうほくそ笑み高らかに笑った。耐え忍ぶように俯き沈黙するイシャーナを、したたかに一瞥(いちべつ)する。

 そして次に移された王の眼差しは、絡め取るように陰湿に……驚愕したナーギニーを見つめていた――。



[註1]イシャーナの母マーヤー:インドで母のイメージは? と考えた結果、仏教の開祖 釈迦(ゴータマ・シッダールタ)の母親マーヤー(マヤ)に思い到り戴いてみました。