「随分掛かったではないか。乾杯は済ませてしまったぞ」

 しばらく視線は一切青年(シヴァ)(おもて)から離れることは出来なかった。が、その音声と共に全ての時が動き出す。シャニの台詞(セリフ)――シヴァに向けられた不機嫌そうな声色。

 ――あ……――

 零れ落ちた吐息はほんの少し音を立てていた。それはシャニに気付かれはしなかっただろうか? 慌ててシヴァから逸らした瞳は、シャニの顔色を確かめられるほど振り向かせるにはためらわれた。ナーギニーはただ俯いて、テーブルの上のスープを見下ろしてしまった。

「失礼を致しました。母が急に発作を起こしまして……」

 シヴァも一瞬ナーギニーに視線を合わせたものの、すぐさまシャニへの謝罪と理由を述べながら、右手一番奥――シャニの斜め左横となるナーギニーの(はす)向かいに腰を下ろした。

「マーヤーが? 先日のアグラへの旅が影響したか……後で見舞おう」(註1)

「お願い致します……」

 僅かに視界に入る彼の上衣は、光沢のある淡いベージュのシルクだった。遠目で見えた白いターバンは、今回は髪をきっちり隠していて、いつになく精悍(せいかん)な装いに感じられた。