麗しい朝がナーギニーを出迎えていた。

 細長い三枚の窓から差し込んだ煌めく光は、まるで金粉を混ぜ込んだ流砂のようだ。それはただ静かに室内を揺らめいていたが、ナーギニーを包み込むシルクの衣擦(きぬず)れと響き合い、さらさらと音色(まぼろし)を奏でながら愉しそうに舞い散り出した。

 そんな音楽に呼び起こされたのか、ナーギニーはふと目を覚ました。導かれるように窓辺に立ち、温かな朝陽のシャワーを浴びる。昨夜の夕食の後、寝台に置かれた寝着に気付き、湯浴みで清らかに戻った肌をその(ころも)でくるんだ。柔らかく清涼感のある素材は、彼女の疲れを芯まで癒し、やがて爽快感に満たされたその身を現実へと(いざな)った。

 バルコニーの向こうで何か小さな物が行ったり来たりしている。

 ナーギニーは好奇心に背中を押され、硝子(ガラス)戸の向こうの囲われた空間に足を踏み出した。涼やかな風が艶のある黒髪を背後へ流す。大理石の滑らかな手すりへ恐る恐る近付き、じっと声を出すことも身じろぎすることも我慢して、欄干の隙間をすばやくすり抜ける茶色い生き物に目を見張る。それは過去のインドでは良く見かけられた尾の長いシマリスだった。が、少女はそれを書物でも見たことがない。(註1)