【砂の城】インド未来幻想

「シュリー……」

 呟くや、何とか押し潰していた孤独が心に溢れ、涙が零れてしまいそうになる。が、その直後、背後の扉から二度のノックが聞こえて、少女の心臓は飛び出しそうなほど打ち震えていた。

「ど……どうぞ」

 か細い応えは部屋の外まで聞こえたとは思えなかったが、それを機に二人の中年女性がワゴンを押しながら入室した。温かな食事をテーブルに供し、並べ終わると同時に「明日十二時より、黒宮にてシャニ様を交えての昼食会。それまでは各自、部屋にて休養のこと」と必要な事柄だけを述べてそそくさと退出し、足音も立てずに去ってしまった。

 一族の従者は皆、感情を出さないように訓練でもされているのだろうか? 黙々と使命を果たし、最低限の会話のみを交わす姿は異様とも思われる。けれどあの賑やかな祭りの中、あれだけの盛り上がりを見せながら、彼らは歌い踊り騒がなかったのだろうか。今となっては知る由もないのだが。

 しかし例外があることも忘れてはいなかった。月夜の墓廟で出逢った青年(シヴァ)。彼にははっきりとした「個人」があった。が、此処で舞い踊る寵姫(ちょうき)達にも自己は存在するのだろうか? シャニに我が身を選ばれたのち、自分もあの何物も映すことのない(うつ)ろな瞳を持つことになるのではないか? あの青年の笑顔さえも映せない瞳に――では、ならば彼は何故、自分が此処へ来ることを望んだのか――そう思えばこそ、小さな希望の灯火(ともしび)を宿し、少女は見えない未来への不安をどうにか落ち着かせることが出来るのだった。