白亜の宮殿は次第に宵闇に溶け、藍色の大気の中へ沈み始めた。しかしその入口は大きな魔獣が餌を狙うかのように、金色の口腔(こうこう)をぽっかりと開けて少女を待ち構えていた。ナーギニーは唇を引き締め、自分を押しやるように一歩を踏み出す。刹那冷たさを含んだ外気が逃げ去り、蜂蜜のようにねっとりとした暖かい空気が、彼女を「捕らえた」とばかりに包み込んだ。煌びやかで贅沢な、貪欲な色と匂いの隠された独占的な空間――。

 辺りは静まり返り、人の気配も感じられなかった。が、全ての照明はナーギニーを迎える為だけに輝いていた。円形に広がった吹き抜けの大広間には、其処で舞う少女を愉しむシャニの為に、立派な玉座が(しつら)えられている。それを囲うように、均等に据えられた幾重にも続く柱の向こうには、碧い扉が扇状に並び、おそらくその内部には先に到着した妾妃(しょうひ)候補者達が留められているものと思われた。