それから三時間は経ったであろうか。

 ナーギニーはいつの間にか、揺れる小舟に身を任せうたた寝をしていた。

 が、それも岸に着けられた軽い衝撃で打ち破られる。少女は俯かせていた(おもて)をもたげ、静止した船上からくるりと辺りを見渡した。

 自分の右側にはなだらかな地面が見え、それは緩やかな上り坂を描きながら奥まで続いているようだった。先に降りた使者がおもむろにナーギニーの右腕を掴み、降りろと相変わらずの無言で促す。船の揺らぎに翻弄(ほんろう)されたバランス感覚は、上陸と共に次第に落ち着きを取り戻したが、依然(ほの)かな光だけが漂う薄暗がりの中では、なかなか意識は鮮明になれずにいた。

 坂を進むにつれ、目指す先がほんのりと明るさを伴い、「出口」が近付いていることが感じられた。やがて目の前に現れたのは、人一人が通れる程度にくり抜かれた通路と、この洞穴との境界を示す一枚の扉だった。

 見た目も動きも重みを感じさせる金属板を手前に引き開き、まずは一人の使者が内部へ、続けてナーギニーを進ませ、もう一人の使者がその後を追った。