先の時代、タージ=マハル廟の創主シャー・ジャハーン帝は、妻の墓廟の隣に自分の墓として、黒大理石で出来た同型の廟を造り、タージ=マハルに挟まれたヤムナ河上へ橋を架けるという壮大な計画を設けたが、夢のまま死後も叶えられることはなかった。それを遥か彼方の未来、王宮として実現させたのがシャニによる『砂の城』だ。

 外界の黄砂を完全に遮断する透明なドームに囲まれた砂の城は、独自の世界を描く地球上唯一の楽園であった。黒宮では州治を操り()べらせ、白宮には美しき寵姫(ちょうき)達が舞い踊る――いわば王の為のハーレムが其処に存在した。

 二つの王宮の周囲には選ばれた民が居住し、あたかも城を守るように同心円状の街が発達している。いや、もはや街などとは語ることの出来ぬ、既に国家として君臨し得るシャニ王国であろう。インド経済の大部分を(まかな)うのは、この砂の城であるのだから――。