それから二時間後。くすんだインディゴ・ブルーの空と、(はしばみ)色の大地のぶつかる地平線の正面、何物も存在しなかった視界についに――何かが出現した。

「シュ、シュリー……」

 ナーギニーはずっと遥かな黒い点を見据えたまま、手綱を引き締めラクダの脚を止めた。弱々しい声でシュリーを呼んだのは、ドールと遭遇した時の恐怖を思い出した所為(せい)かもしれない。

「……とうとう辿り着いたのね」

 けれどその声とラクダの静止で目覚めたシュリーは、落ち着いた低い声で答えを導いた。二つの谷が合わさる浅いすり鉢状の地形には、砂の城からの使者が待っていた。

 シュリーはナーギニーの手から手綱を受け取り、ラクダに前進を促した。ゆっくりと大きくなる黒い点は、次第に細部を明らかにさせたが、こちらに気付いているのかいないのか、特に動きは見せなかった。