翌朝――。

 まるで揺りかごに揺られるような心地良い安らぎの中、少女が目を覚ましたのは、未だ太陽(スーリヤ)が地平線から顔を出さない薄暗がりの時刻であった。

 僅かに開かれた瞳の奥に刻まれた物は、美しい蒼の世界だった。遥か昔失われてしまった偉大なる海を思わせる――実際には闇から抜け出そうとする砂の海に他ならないが、風が紋様を描く砂の波からは、真の波音が聞こえてきそうな荘厳な姿が其処にあった。

 ラクダは相変わらず何事もなかったように、砂の城へ向けて歩き続けている。但し存在するのはナーギニーを乗せた一頭と、シュリーを乗せている筈のもう一頭のみで、その背にはシュリーの小さな荷が積まれているだけだった。

「大丈夫? ナーギニー」

 昨日までと同じ心配を含んだ声は、ラクダの前方から聞こえてきた。おもむろに身を起こし見下ろした手綱の先には、振り返り見上げるシュリーがいる。

「シュリー……もう大丈夫なの? 一体どうなったの?」

 追い風を気持ち良さそうに受け流し、絡みつく砂を軽快に跳ね飛ばしながら、シュリーはナーギニーの様子に安堵して、ゆっくりと前方に顔を戻した。いつの間にか男物の白いクルタとピジャマを身に着け、髪はうなじで一つ縛りにしている。さながらラクダに乗った姫を案内する従者のようだ。