「ナーギニー、とても綺麗だわ」

 しばし見とれていたシュリーの唇から、微笑みと感嘆の言葉が現れた。

「シュリーも、とっても可愛い」

 込められた温かみを真っ直ぐに受け取り、はにかみながらも同じ気持ちを返すナーギニー。彼女も自然に想いを伝えられる楽しさを、ようやく知ったようだった。

「シュリー様も宜しいですかな」

「あ……はい」

 シュリーは慣れない呼ばれ方に一瞬戸惑いを示したものの、背後から二頭のラクダを引き連れた使者に促され、一頭に小さな荷を、もう一頭に自分の身体を乗せて、広げられた視界に目を見張らせた。

 ――随分と野次馬が集まったものね……野次馬? いえ、違う――

 自分達を中心として集まる人だかりを見つめたシュリーは、興ざめした表情を隠そうともしなかった。この場に居る殆どの面子(メンツ)は、おそらくシュリーにもナーギニーの家族にも面識はない。それでも親切な人間を装って餞別を渡そうと必死になっているのは、披露の後、寵姫(ちょうき)として選ばれた花嫁が一度家族を連れに戻ってくる際、砂の城からの「おこぼれ」に預かることを内心期待しているからだ。まるで「逃すには惜しい」とシャニから特別賞を与えられたナーギニーこそ、花嫁に選ばれる可能性が高いと踏んだのだろう。その餞別は優勝したシュリーではなく、ナーギニーの(もと)へと集中した。