旅支度のため全身をすっぽり覆う薄いヴェールにくるまれているが、その合わせの隙間からは鮮やかなピンク地に金色の豪華な装飾が覗いている。艶のある長い黒髪も、淡い蓮文様のショールに守られ、一層滑らかさを際立たせていた。

 そのような豪奢(ごうしゃ)な衣装にも負けぬ程、ほんのり赤く上気したナーギニーの頬には、いつになく健康そうな様子が見て取れる。祭りの後の静養が効いたのだろう。シュリーとの別れの後、彼女を見つけたナーギニーの家族は、今まで通りの優しく穏やかな面々に戻っていた。母親は喜びを露わにし、大袈裟な祝福の言葉と共に強く娘を抱き締めた。一家はにこやかに彼女を取り巻いて、最後の祭りを楽しむ為、屋台や神輿(みこし)の群れへ溶け込んでいった。それから帰宅したナーギニーは、もう二度と嘲笑(ちょうしょう)も中傷も受けることはなく、満たされた眠りから翌朝全ての疲れを(ぬぐ)い去り目覚めた。もちろん掌を返したように豹変した家族への(わだかま)りが消えた訳ではない。それでも彼らをそうさせてしまったのは、自分の「過去」と「今」なのだと思えば、むしろ自分に非があるのだと、深く心に痛みを感じていた。