「ナーギニーっ、ごめんね~、遅れてー!」

 祭り最終日から二日が経った出発当日。清々(すがすが)しい朝の光に包まれて、元気に手を振り駆け寄るシュリー。その姿は純白の生地に薄紅色の手刺繍が施されたパンジャビ・ドレスを(まと)い、同じく白布に銀色のコインを房のように縫い付けた軽やかなドゥパッターを巻きつけている。小ざっぱりとした荷物を抱え、タージ=マハル正面に群がる人々の山へ、シュリーは勢い良く走り込んだ。そんな彼女がナーギニーをいち早く見つけられたのは、既に少女が迎えのラクダに乗せられていたからだった。

 シュリーの声に気付いたナーギニーは、向けていた背をぎこちなく振り向かせた。大きな(まなこ)は初体験の「高さ」に少々おどおどとしているが、親友に再会出来た喜びに満ち溢れ、色艶の良い笑顔を見せている。少女の足元に到着したシュリーは、異国の姫の旅路のような眉目(みめ)麗しい装いを見上げ、思わずハッと息を呑んだ。