「……うぇ……気持ち…悪……」
吐きそう。
と口にしようとした時、俺の真正面にしゃがんだ神代先輩が小さく小さく言った。
「離れないと殺すよ?」
真っ直ぐに俺を見ながら。
というか、“俺を通して別の誰かを見ながら”、が正しい。
冷たく、突き放すような。
慈悲の欠片もない冷淡な声。
それを真っ直ぐに受けた瞬間……めまいが ふっと治まった。
気持ち悪さが消えて、吐く寸前まで言ってたのにそれすらもすっかり消え失せた。
今はもう、普段通りに体が動かせる。
……もしかして幽霊が俺に取り憑こうとしてた……?
というのを神代先輩に聞こうと思ったけれど、まだ上手く声が出せない。
ていうか先輩が怖すぎて、声をかけるのも怖い。
なんて思っていた時に、神代先輩がニコッと笑ったのが目に入った。
「さて、みんなのところに行こうか」
「……え……あ、はい……」
何事もなかったかのように、いつも通りの優しく穏やかな笑み。
ここでの微笑みは、逆に怖いです……。
「あぁしまった、殺すは失言だったな」
「……」
「だって、死んでる奴を殺すなんて普通は出来ないもんね?」
平然と、ニコニコしながら言う先輩。
あぁ、やっぱり“何か”が取り憑こうとしてたのか……。
ていうか先輩なら死んでる奴も全然余裕で殺せそう……。
と思ったけれど、言葉を放つことなく引きつった笑みだけを返す。
むしろ今はまだ言葉が上手く出せなくて、それしか返せない。
だけど神代先輩はとくに気にすることもなく、鼻歌交じりで歩き始めた。
そんな彼の視線の先には、ニッコニコで手を振る梨乃先輩が居る。
……先輩、また鼻歌出ちゃってます。
と言いたかったけど、それを言ったら今度は“俺自身”にさっきの冷たい瞳を向けられそうで怖い。
だからそれは黙っておくことにして、今はただ……お礼を言おう。
「……あの、助けてくれてありがとうございました」
何から、は言わないけれど、それでも十分伝わるし、先輩がそれを指摘してくることもない。
「どういたしまして」
という優しい声はいつも通りだけど、今後は神代先輩のことは怒らせないようにしよう……。
と密かに思いながら、俺もまた歩き始めた。



