有り得ないことだけど、でもあの瞬間では有り得たことだったと思う。
あの瞬間、あの場では“何か”不思議な力が働いていた。
現実なのに現実じゃなくて。
夢でも見ているかのような。
でも服を掴まれた感覚はハッキリとあって。
真っ黒な水の中なのに「白骨化した手」が見えて。
見えた瞬間、咄嗟にそれを払い除けた。
……あの時 俺は、確かに彼女に触れたんだ。
その時のことを、俺は忘れることが出来なかった。
なんなら時々夢に見るほどだし、あの時の感触は今でも覚えてる。
諏訪や神代先輩は何も言わなかったけど、実は俺は彼女に取り憑かれてるのか? なんてことも思ってた。
だけど……そっか。
彼女は元・彼氏のところへ行ったのか。
俺はもう、彼女のことで思い悩む必要はないんだな。
と言っても、手に残ったあの時の感触を忘れることはないんだろうけど。
それにきっと、今後もまた夢に出てくることはあると思う。
でも気持ち的には楽になる。
「終わったことだ」と、思うことが出来るから。
「……なんか気ぃ遣わせちゃってすみません。 でも、彼女の「その後」を知ることが出来てほんの少しだけ気持ちが楽になりました」
「俺は智樹先輩に言われたことを伝えただけだから。 だけど如月の気持ちが軽くなったのならよかったよ。 ……っと、倉本たちが戻ってきたね。 話を聞きに行こうか」
「はい」
トンネルの奥から、蒼葉たちが戻ってくるのが見えた。
桜井先輩たちの時よりも戻りが早いな。 と思ったら、どうやら三人は行きも帰りも早歩きで進み、写真もあまり撮らずに出てきたみたいだ。
住吉は「メチャクチャ怖かった」と言い、透は「周りを見る余裕なんて無かった」と苦笑いを浮かべ、蒼葉は「怖すぎて何も覚えてない」と半ば涙目に。
……ねぇちょっと。
このあと俺が入るのにそういうこと言うのヤメテ……。



