うばわれたのは、こころとくちびる

 衝撃だった。まさか寡黙な湯瀬さんに、あんなサイコパスのような一面があっただなんて。思いもよらなかった。

 だから、だから俺は、ただ、驚いている、だけなのに。それだけなのに。この昂る気持ちを、止められない。抑えられない。

「あの、俺、好きになっちゃいました。湯瀬さんのこと」

 収縮を繰り返して踊る心臓に体を熱くさせながら顔を上げると、俺の告白に反応を示してくれたような湯瀬さんと目が合った。吸い込まれそうなほど綺麗で澄んだ黒だった。

 美を感じる瞳としばらく見つめ合って、良い雰囲気かも、なんて呑気に自惚れていたら、いずみさん、とまだ漢字を教えていないためだろうか、ひらがなのような響きで俺を呼ぶ湯瀬さんの声に胸が高鳴った。

「足元の、拾って」

「……ん?」

「拾って」

 告白の返事ではない台詞に意表を突かれながら、言われた通りに足元を見ると、裏返しの五百円玉が転がっていた。

 告白をスルーしたということは答えはノーだろうか、と落胆しながらも、はい、と素直に拾って手渡すと、不意にその手を湯瀬さんに捕られた。

「え、湯瀬さ……」

 言葉を、遮られる。目を閉じる間もなく、俺の無防備な唇に重なった柔らかいものは、ガードの硬い寡黙な湯瀬さんの唇だった。

 ああ、なんだか今夜は、気持ちよく酔えそうだ。



END