夜のコンビニは治安が悪いことがあるが、今日は割と静かだった。明らかに柄の悪い不良と活動時間が被るのは御免だったため、酒が飲みたいでも冷蔵庫には何もないよし買いに行こう、そう思い立って即行動に移したのがこの結果を生んだのかもしれない。彼らの目が開くのはきっとこれからだ。というのは偏見だ。文字通り、横暴で傲慢な不良に良いイメージはなかった。

 酒のためにふらふらと夜道を歩く背徳感を携えたまま足を踏み入れた店内には、ドリンクコーナーで酎ハイを選ぶ自分しか客はおらず、今現在、俺はレジカウンターで暇を持て余している男性店員と二人きりだった。

 その店員とはすっかり顔見知りになっている。落ち着いた雰囲気の黒髪ストレートで、あまり喋りたがらない寡黙な人だった。

 制服の胸元の名札には湯瀬と表記されていて、読み方は、ゆぜ、というらしい。教えてはくれないだろうとダメ元で聞いてみれば、存外あっさり答えてくれた。聞いてよかった。ゆせ、だとか、ゆのせ、だとか思っていた。

 レジにいる湯瀬さんを一瞥する。湯瀬さんには、聞かれてもないのに自分の名字を名乗ってしまっていた。質問に答えてくれたことに少なからず動揺し、頭の整理がつかないまま勢いで、俺は和泉、と意図せず漏らせば、いずみ、と漢字ではないひらがなのような音で復唱された。その瞬間、胸の奥の方が、なぜかは分からないが、ぎゅうと締まった。若者の言葉を拝借するなら、キュンとした。口にした本人の顔色は一切変わらなかったため、きっと無自覚なのだろう。質が悪い。