若旦那様の憂鬱

以前は花の前でさえ仮面を被っていた。

花が高校2年生の時だろうか、そんな俺を見抜かれたのは……

塾の迎えに行った帰り道だった。

「柊君って疲れない?」
 
突然花からそう聞いてきた。何の事か一瞬分からなかった。

「いつも、若旦那様の仮面を被ってて何だか大変そう。疲れない?」

そう言ってくる花に若干狼狽え、言葉を選びながら話す。

「花からは俺がそう言う風に見えるのか?」

「康君が言ってたよ。若旦那は大変だって、素の姿さえ誰にも見せないで疲れないかなぁって。私ぐらいには素でいてくれて構わないよ。だって妹だし。」

康生か…、確かにアイツには体裁なんて要らないから、ありのままの俺で接してるが。

「もうずっと、こんな風に過ごしてるから何が素か、自分でも分からないんだ。」
そう言ってみる。

「いつか、疲れて倒れちゃうよ。もっと、自分らしく生きてもいいと思う。」

高校生に悟られるとは。

絶句しながらも、そんな心配してくれるのかと嬉しくもなる。

「分かった。出来るだけ花の前では素でいるようにするよ。でも、イメージじゃ無いって幻滅するかも知れない。」
そう言って笑った。

「そんな柊君も見て見たい。」
花も屈託なく笑った。

その笑顔が見たいと思った。

そこからちょっとずつ揶揄っては、花の始めての顔を見て、もっと他の表情も見たくなった。

困った顔や怒った顔まで愛くるしくて、全てが見たいと欲張りになってしまう。

俺が心を開くと言う事は、花も心を開いてくれると言う事だと知った。
思えば、今まで付き合った彼女でさえ素で接してはいなかったと気付く。