柊君は、
私のそんな心の内を知ってか知らずか、
お構い無しに近付いて来て鍋の中を覗き込み、

「美味そう。」

と、配膳を手伝う為に台ふきを濯ぐ。

「柊君はいいから座ってて、
大事な着物が汚れちゃうといけないから。」

「俺がそんな失敗する訳ないだろ、
花じゃあるまいし。」

「どうせ、私はおっちょこちょいだよ。
そうだよ。私がお着物を汚さない為にも、
大人しく座ってて。」

開き直ってそう言って、
ダイニングの椅子に柊君を座らせる。 

ビーフシチューを温めながら、
サラダを冷蔵庫から取り出し、台拭きでテーブルを拭く。

そんな私を肩肘を付きながら、柊君はずっと見つめてくる。

それだけなのに見られている事に緊張してしまう…、

それはいらない恋心のせいで、

彼の視線が気になってドキドキしてしまう
自分に嫌気がさしてくる。

「花は、ハムスターみたいで見ていて飽きない。」
そう言ってまた揶揄ってくるから、
頬っぺたを膨らませてムッとした顔を向ける。

屈託なく笑う今の彼は、裏の顔。

意地悪で、直ぐ私を揶揄って、
それでいて本当はすごく優しい…。