若旦那様の憂鬱

気を立て直し、花の為に写真を撮る。

従業員と一緒のもの、女将と2人の親子のもの、お見送りのお客様を送り出す傍ら、
旅館の玄関ホールが撮影会に早変わりした。

考えて見れば花がうちに来てから、
旅館業の家系のせいで、家族で旅行に行く事も無く、家族写真があまり無い事に気付た。

強いて言えば、お正月に毎年、
いつか祖母の遺影の為にと、父が撮っていた写真のみだ。

もちろん俺との写真なんて一枚も無い。

数少ない家族写真のほとんどは、
花と康生が一緒に写っていた。

その頃、思春期真っ只中の俺は、
写真に収まるのを嫌い、
専ら撮り手に回っていたんだと、
今になって悔やんでも悔やみ切れないが…。

それに最近気付いた時、
何でもっと撮らなかったのかと思った。

「せっかくだから、若旦那も入ってよ。」
仲居の1人がそう言って、俺からカメラを取り上げる。

困った顔で花に近付くが、内心、
本当は凄く嬉しいと思う自分がいた。

2人で撮る始めての写真に気持ちが高揚し、
「綺麗だ」と、つい呟いてしまう。

花は動揺し、びっくり顔で俺をチラッと見ただけで、直ぐに前を向いてしまう。

可愛いな。
真っ赤になったうなじを見つめてそう思う。