若旦那様の憂鬱

玄関先でお客様を送り出す時間帯になり、他の業務を終え急いでロビーに向かう。

今日は成人の写真撮りもある為、館内には振袖を着た女性が多く賑わっている。

それなのに、パタパタと小走りで走る花を目敏く見つけてしまう。誰よりも綺麗で、可憐な彼女をつい目で追ってしまうのは俺だけじゃない筈だ。

あんなに走るなと言ったのに…接客もよそに花に近付いて行く。

その時、絨毯に躓いたのか転びそうになった花を、寸でで駆け寄り抱き留める。

「…走るなって言っただろ。」

いつもより艶やかな花の雰囲気に目を奪われながら、兄の顔でそう言う。

「…ごめんなさい。」

しゅんとする姿も愛らしく、可愛らしい。
たまらず微笑んでしまう自分に苦笑いする。

ああ、密かに花の為に買った帯締めと帯留めが良く似合っている。

牡丹の花飾りと小さな鈴の付いたその真紅の帯締めは、父達が選んだ紺に金の刺繍が入った帯よりも艶やかに引き立っていた。

1人ほくそ笑み優越感に浸ってしまう。

旅館の従業員がこぞって彼女を取り囲み、花は楽しそうに微笑みを浮かべる。

あまりにも眩しくて、綺麗で、
それでいて儚くて…

ああ、花が遠くへ行ってしまう…

不思議な寂しさを感じ心が痛む。