若旦那様の憂鬱

「ありがとうございました。」

詩織は満面の笑顔で柊生にお礼を言う。

そろそろ出発の時間になって、花は振袖の上にショールを羽織り出かける支度をしていると、不意に柊生が近寄ってきて、

「お祝いだから受け取って。」
と、ぶっきらぼうにポチ袋を差し出してくる。

花はぶんぶんと首を横に振り拒む。

「お年玉もらったばかっかりだし要らないよ。気持ちだけで十分だから…。」

一生懸命に断るのに、柊生は苦笑いしながら花の帯にポチ袋を挟む。
「タクシー代だと思ってもらっとけ。」

そう言ってさっさと行ってしまう。

事ある毎にいつもお金を包んでくれるけど…普通兄妹であげたりするもの?

どう返せばいいか分からないから困ってしまう。

母にその事を告げに行く。

「お母さん、柊君からまたお祝い金もらっちゃったの。断ったんだけど…。」

「柊生君はきっと、兄として花に何かしてやりたいのよ。そう言えば、帯留めと帯締めは柊生君が買ってくれたみたいなの。
花には言わないでって言われてたんだけど…。どこかでお礼が出来るといいわね。」

「本当に⁉︎この鈴が付いてる帯留めも?」

「そう、花に似合いそうだからってわざわざ選んでくれたみたい。」

知らなかった…いつも私には揶揄ったり、意地悪したりするのに、こういう時は何かとお祝いしてくれて、私の為にといろいろ考えてくれる優しい人。

また、好きが積もっていく。

決して、お金をくれるからじゃない。
何か私にしてあげたいと思ってくれるその心が嬉しい。と、花は思う。