若旦那様の憂鬱

詩織とその母が車にから降りてきて、花の母と一緒に挨拶を交わす。

「詩織ちゃん、可愛い、赤似合うね。」

「ありがとう。花もなんか大人っぽくなった感じ。綺麗な柄の着物だねー。」

「大女将の着物なの。ずっととってあったんだって。
凄いよね!」

「マジで⁉︎ちょー貴重な着物じゃん。」

「そうなんだよ。汚さないように気を付けなくちゃって、ちょっと怖いの。」

詩織とは中学、高校とずっと一緒だった為、今でも良く会う友達の1人だ。

「ねぇねぇ。柊様と写真撮りたい。
聞いてみてよ。」

「柊様⁉︎柊君の事?」

「巷では、密かに柊様って呼ばれてるんだよ。知らないの?」

「いつからそんな呼ばれ方されてたの?」

「若旦那様になったくらいからじゃないかなぁ。お願い写真頼んでみて。」

柊生に目を向けると、お帰りのお客様の対応をしている。

さっきから失態続きの花は話し辛いが、友人のたってのお願いを無碍にも出来ず、静々と柊生に近寄って行く。

「柊君。お願いがあるんだけど…。」

タイミングを見計らって柊生に小声で話しかける。
くるっと向きを変え柊生が近付いて来る。

「どうした?」

「あのね。 
詩織ちゃんが柊君と写真撮りたいって言ってるんだけど、ちょっとだけ来てくれる?」

若干、嫌そうな顔を花にだけ見せ、くるっと詩織に目を向けて表の顔でにこやかに対応し出す。

「お久しぶりです。
花といつも仲良くしてくれてありがとうございます。お着物お似合いですね。」
 
裏と表が激しいなぁと、花は思う。

「ありがとうございます。こちらこそいつも仲良くしてもらってます。あの、お写真一緒にいいですか?」

「もちろんです。」

爽やかに笑って柊生は言う。
詩織は花にスマホを渡して撮ってと頼む。

2人並んでいるのを見ると、花の心はチクチク痛み出す。

友達にも嫉妬するなんなて子供みたい。 
自分で自分が嫌になる。

しかも声をひそめ何やらコソコソ話し出すから、花はモヤモヤしてしまう。

はぁー、なんだか2人お似合いだな…。
撮った写真を確認して、花は落ち込む。

詩織ちゃんは可愛いから柊生と並んでも絵になる。
 
それに比べて私は……。
柊君の横に立つのもおこがましいな…。