若旦那様の憂鬱


「花、気を付けてよ。
今日はせっかくのハレの日なんだから、
もっとお淑やかに歩かなくっちゃ。」

母がチリンチリンと鳴る帯留めや飾りかんざしを付け直してくれる。

「似合ってるわ。綺麗よ。
なんだか着物着ると、花は大人っぽくなるわね。」
と、母が言う。

「何それ。普段は子供っぽいって事を言いたいの?」

花は褒められて照れ笑いする。

「花ちゃんもいつの間にか成人なのねぇ。
私も泣けてきちゃうわ。」

長く働いている仲居さん達が口々に、花を囲んで褒めたり泣いたり忙しくなる。

「良かったら、皆さんも一緒に花と写真撮りませんか?せっかくの記念日ですので。」

柊生が、車での宣言通り写真を撮る事を提案する。

「良いわね。花、どうせなら華やかな玄関先で撮りましょ。」
母も張り切って、みんな並んでもらい記念写真を撮る。

柊生がシャッターを押して何枚か撮っていると、
「せっかくだから、若旦那も入ってよ。」
仲居さん達から声が上がり、強引にカメラを奪われ花の横に並ばされる。

母も入れて3人で撮る。
「ねぇ。旦那様も呼んで家族で撮りましょうよ。」
母がそう言い出し、義父を連れに場を離れていく。

柊生がそっと花から離れようとすると、
「若旦那と花ちゃん2人で撮ってあげるから、動かないで。」
カメラを手に持つ仲居さんがそう言って、2人を並ばせる。

柊生と2人で写真を撮るなんて事は初めてで、花は恥ずかしくて目が泳ぐ。

「花、綺麗だ。」

隣に並び、表の顔で微笑みながら柊生がそっと言ってくるから、花はドキッとして、一瞬柊生を見てすぐ目を逸らす。

「あ、ありがとう…。」

その後、義父も参加して撮影会は迎えが来るまで続いた。