若旦那様の憂鬱

「これでよし。
女将さんも玄関の方に来てるから、見せておいで。綺麗よー。花ちゃんはメイクすると、また雰囲気が変わって大人っぽくなるねー。」

メイクをしてくれたスタッフさんがそう言ってくれる。

「お世辞でも嬉しいです。」

花は照れながら、新品の草履に足を通し母が居る玄関に向かう。

歩くと帯留めについた小さな鈴がチリンチリンとなって可愛い。花もテンションが上がって小走りになる。

パタパタと小股で走りながら玄関先に向かう。

数人の仲居さんが、お客様のお見送りをしている姿が目に映る。

あっ、お母さんだ。

花は、にこやかにお客様に向かって手を振る母を見つけて駆け寄る。

と、絨毯に足を取られ躓きそうになる。

「きゃっ。」

花は咄嗟に目をつぶる。次に来る衝撃を待つ、が……あれ?

誰かにぎゅっと抱き止められていた。

「…走るなって言っただろ。」
目を開けて声の方を見ると、

思ったよりも至近距離に柊生の顔があってびっくりして飛び退く。

柊生はちょっと怒った顔でこちらを見て、

「絶対走るなよ。花は普通に歩いてても転びやすいんだから。」

「…ごめんなさい。」

その場に居た母や仲居さん達もホッとした顔で近付いて来る。