若旦那様の憂鬱


「ご、ごめん!」

さすがの柊生もバッと目を逸らし背を向け謝る。果穂も慌てて近くにあった長襦袢を羽織る。

「だ、大丈夫…。」

「…そう言えば、
同窓会に着て行く服はあるのかと、思って……ごめん突然入って…。」
背を向けたまま柊生が話す。

「ううん…大丈夫……フォーマルな服って事?」

「もし、無かったら館内の衣装レンタル店で借りたらいいと思って…。」

「あ、そうか…ちょっと友達と相談してみる。後で、柊君にメールするね。」

「分かった。」
柊生は一度も花を見ないまま去っていった。

はぁー。花は深く深呼吸する。

またドキドキと脈打っている。本当、朝から心臓に悪い……。

それから花は友達の詩織に連絡して、同窓会の服はレンタルでお願いする事にした。

電話を終えると丁度トミが来てくれて、テキパキと振袖を着付ける。

「花ちゃんもいつの間にか大人になったのねぇ。来たばかりの頃はこんなに小さかったのに…。」
トミが染み染みそう言う。

トミは仲居の中では1番長く働いていて、母が住み込みの仲居の時はアパートのお隣りさんだった為、いつも花を気にかけてくれていた。

「トミさんにはいつも良くしてもらっていたよね。お菓子とかいろいろもらったし。
トミさんのどて煮好きだったなぁー。」

「あんなので良かったらまたいつでも作るわよ。たまには旅館にも顔出してね。」

「ありがとう。そうだね、大学に入ってからあんまりこっちに来る機会なかったから…。」

そんな話をしながら、あっという間に着付けは終わる。

メイクとヘアセットをするスタッフもすぐに来てくれて準備が整う。