若旦那様の憂鬱

茶室に向かいながら、
頭はまだ追いつかない思考にボーっとしていた。

今日は、成人式…

そう、成人式なんだから、

振袖着て懐かしい友達に会って…、

そうだよ。ボーっとしてる場合じゃない。


茶室に到着して部屋の電気をつける。
誰もいない8畳の茶室はヒンヤリしてて、
ボーっとした頭をシャキッとさせてくれた。

この部屋は茶宴が行われる時だけしか使われていない為、
花にとっては小さい時から宿題をしたり、
1人遊びをして母の仕事が終わるのを待っていた部屋だった。

この広い旅館の中で唯一ホッと出来る場所となっている。

雪見障子を開けて、そっと坪庭を覗く。

綺麗…。
雪が小さな灯籠の上に積もって、
朝日を浴びてキラキラと輝いていた。

ほんの数分眺めていただけだけど、
気持ちは随分落ち着いた。

ガラガラ。

誰かが入って来た音がして、慌てて振り返る。

そこには花の荷物を持った柊生がいて、

「エアコン付けないと寒いだろ。」

と、部屋を温める為エアコンのスイッチを押す。

「あ、ありがとう。」

さっきのやり取りで、花は少し動揺してしまう。

「トミさん、着付けの手伝いをしてて時間押してるみたいだから、先に肌襦袢だけ1人で着れるか?」

「うん。多分…」

母が着付けるのを見た事はあるけど…、
なにせ自分が着るのは初めてなので、
戸惑いながらカバンを開ける。

「前はどっち合わせだっけ?」

「自分から見て左衿が上だ。…大丈夫か?」
柊生が心配そうな顔で一瞬、花を見る。

「ここに帯とか腰紐とか一式用意してあるから、あと、荷物はこのままここに置いといていい。ここは終日、花の部屋だ。」

「ありがとう。
忙しいのにごめんね、お仕事に戻って。」

「ああ、何があったら内線して。」

「うん。」

柊生は慌ただしく部屋を出て行く。

花は戸惑いながら、着ていた服を脱ぎ肌襦袢を羽織ってみる。

下着って付けたままでいいのかな?
初歩的な事が分からなくて手が止まる。

とりあえず、裾除けが先かな?
足元に裾除けを巻き紐を結び、
肌襦袢を襟元を気にしながら合わせて紐で留める。

薄い綿生地は心許ないほど透けている。

こんな感じかな?

素人の花にはこの着方でいいのかどうかも分からない。

ガラガラ、

トミさんが来た?
と思って振り返る。

そこには目を見開いて固まる柊生がいた…。