若旦那様の憂鬱


「花は?酒飲んだ事あるのか?」

「誕生日にちょっとだけ、お義父さんにビール飲ませてもらったよ。」

「それだけじゃ、強いか弱いかなんて分からないよな。今日は辞めとけよ。」
口うるさい兄の顔をして柊生が花に言う。

「飲まないと思うけど…約束は出来ないよ。
だって、みんな飲んでて私だけジュースとかってノリ悪いでしょ?」

「飲んだフリして捨てればいい。」

そんな上級者みたいな事出来ないよ、と、花は思う。

「そんな事出来ないよ…勿体無いし。」

車はロータリーに着いたのに柊生は降りようとしないで、花に聞いてくる。

「その、同窓会は何時に終わる?」

「どうかなぁ。
8時ぐらいには終わるんじゃないかな?
担任だった先生も来てくれるみたいだから、そんなに遅くはならないと思うよ。」

そう言って、花はシートベルトを外しドアノブに手をかけようとする。

その手を柊生がパッと掴んでぎゅっと握られる。

花はびっくりして固まる。

柊生に掴まれた手がドクンドクンと脈打つのが分かるほど、鼓動が急上昇する。

「迎えに行く、絶対連絡して。」

柊生の真剣な眼差しに、握られた熱くて大きな手のひらに、視線が囚われ動けなくなる。

「花、分かったな?」
ハッとして、コクンと頷く。

柊生は何も無かったかのように手を離して、
「危ないからちょっと待ってろ。」

と、自分が先に降りてドアを開けてエスコートしてくれる。

「…ありがとう。」

「トミさんが茶室に来てくれるから、
先に行って待ってろ、荷物は俺が持ってくから。」

「分かった…。」

花は、旅館のロビーへと向かう。

さっきのは何だったのかと思うほど
頭が真っ白になった…。

高鳴った鼓動がまだ静まらない。