若旦那様の憂鬱


「家族写真とか撮った事無かったよな。なんならみんなで撮ろう。帰って来てからでもいいから。」

柊生はどうしても写真を撮りたいらしく、なかなか引いてくれない。

「式の後に、中学の友達とお食事する事になってるし、夕方からは高校の時の同窓会があるの。」

「ずっと着物でいるつもりか?」
心配そうに柊生が花にチラッと目を向ける。

「せっかくだからそのつもりだけど…。
大変かなぁ…?」

「着慣れてない人間だったら、もって昼までだろ。
飯も通らないくらい苦しいはずだ。」

そんなに大変?
仲居さん達はみんな一日中着て働いてるから大丈夫なのかと思ってた。

「仲居さん達は一日中着てるよ?」

「それは着慣れてるからだ。
せめて夕方は着替えた方がいい。お昼が終わったら一回戻って来い。それか、迎えに行こうか?」

「えっ⁉︎柊君が?だ、大丈夫だよ。
タクシー使うし、それか、康君にお願いするから。」

「なんで……なんでいつも康生に頼んで、
俺に頼まない?」
前を向いて運転はしているが、明らかにムスッとした顔で柊生がそう言う。

「だって、柊君は忙しいでしょ?
康君は暇人だから用事があっても遊んでるだけだし、呼びやすいんだもん。」

「俺だって、花の送り迎えぐらい出来る。」

「お仕事中の人に頼めないよ…。」

どうしてそんなに康君と張り合うんだろう、と花は思う。

「せめて兄として出来る事は何でもしてやりたい。もっと俺を頼って欲しい。」
真剣な顔でそう言ってくるから、

「分かった…。
でも、絶対お仕事が優先だよ。私は二の次でいいんだからね。それだけは約束して。」
 
それでも花は出来るだけ、自分の事で柊生に迷惑をかけたくないと思う。

「それで、夕方は何時からなんだ。」

「えっと、6時からホテルのダイニングバーなんだって、貸し切りらしいよ。」
花は詩織からのメールを見ながらそう話す。

「…飲むのか?」
また、怒ったような声で聞いてくる。

「20歳になってる人は飲むんじゃないかなぁ。」