若旦那様の憂鬱

「花、昨晩はちゃんと寝れたか?」

車に乗り込んで早々、ハンドルにもたれながら柊生は花の顔を覗き込んでくる。

「うん。今週は早く寝るようにして、ちゃんと体調整えたよ。」

そう伝えると、にこりと笑って今日1番の笑顔をくれる。

「それなら、大丈夫だな。」
  
柊生は安心したようにそう言って車が出発する。

花は、柊生の爽やかな笑顔を見たせいか、どんどん緊張して心拍数が上がっていくのを感じる。

「緊張してるのか?」

「それは…緊張するよ。
私、着物着るの初めてだもん。」

「そうなのか?
七五三とかでは着なかった?」

「あの頃は、
そんなに金銭的にも余裕が無かったから、
近所の神社にお参りに行っただけだったな。」

「そうか……。
それなら尚更、女将さんも写真撮りたいんだろうな…。」

「一回くらい着慣らしておけば良かったねって、昨日お母さんと話したとこだよ。」

「写真館で写真は?」

「撮らないよ。一生残って恥ずかしいし。」
 
花は、小さい頃から写真を撮る習慣が無かったからか、今でも写真は苦手だった。

友達と写真を撮り合ったりした事もあまり無い。

「撮ればいいのにせっかくの記念だろ。
後で写真館の人に聞いといてやる。」

「こんな忙しい日にいいよ…予約でいっぱいでしょきっと。」
断るつもりでそう言うのに、

「スナップショットだけならやってくれるだろ。」
それでも柊生は推してくるから、

「写真は恥ずかしいから苦手だし…。」