逃げるように家を出て勢いのまま電車に乗った。

母からの電話で実父が旅館に来てると聞き、目の前が真っ暗になった。

実父は私に会いたいと言っていると言う。

何の為に?目的は分からないけれど、

逃げても逃げても見つけ出される恐怖心はずっと拭えず、ここまで来たけど……。

この土地に来て、家族の温かさを知った。
周りの人達の親切心や温もり、
何より愛し愛される事の満たされた気持ちを知った。

始めて自分の居場所が出来たと思った。

なのに…
自分がいる事で一橋家に、
旅館に迷惑がかかってしまう。
大事な人達を守る事が出来る唯一の方法、
それは自分がいなくなる事が1番だと思った。

心の中で何度も何度も、柊君にごめんなさいと思う。
こんな私を愛してくれて大切にしてくれて、居場所をくれた。

スマホも指輪も何もかも全て置いてきてしまった。
柊君に対しては、
後悔も申し訳なさも刹那さも、
簡単に断ち切る事の出来ない感情が溢れて、
しばらくは立ち直れないだろう。

ううん、きっとずっと一生後悔して生きて行くしか無いんだろうな、と花は思った。

柊君は今頃、勝手に出て行った私の事を怒っているかも知れない。
悲しんでいるかも知れない。

そう思うだけで自然と涙が溢れてしまう。

電車を乗り換え、やっと空港に辿り着く。

行き場所を北海道に決めたのは単純に、
実父が見つけ出せないくらい遠くへ行きたかった。

週末には水族館に行こうって楽しみにしてたのに……。

柊君のいない世界で私は1人生きていけるのだろうか…。
そんな不安と迷いがあって、
思わず身代わりに茶トラのぬいぐるみを持ってきてしまった。

大きな体は手持ちのバッグには入りきれず尻尾が飛び出してしまう。

ごめんね茶トラ、窮屈だよね。
心で茶トラに話しかけながら柊君の事を思う。