若旦那様の憂鬱

「父さん、緊急です。花の父親が来ました。
今、応接室にとりあえず通してありますが、花に会いたいと要求しています。
僕と花との事は知られていないようですが、女将と貴方の再婚は知っているようです。」

柊生がらしく無く、旦那様と呼ばずに、父さんと呼んだ事で、父はいち早く緊急性を察知した。

「分かりました。今対応に向かいます。
女将と花ちゃんに連絡を、とりあえず安全な場所に待機を。」

「分かりました。」
内線を切り、まず女将に連絡を取る。

『お疲れ様。柊生君、どうしたの?忙しいようならそっちに行こうか?』

女将はいつもの調子で電話に出る。

「女将さん、落ち着いて聞いて下さい。」

そこで柊生は一息付き、乱れた心を沈める為、深く息を吸い込む。

『どうしたの?』
事の重大さを察した女将は、声のトーンを抑えて柊生の次の言葉を待つ。

「今、応接室に宮本って男が来ています。
花の父親だと思われます。父が対応に入ります。
女将は今どこですか?」

『い、今、家に居るわ。何か危害を加えるかも知れない…、どうしましょう。私が対応した方が…。』
女将も狼狽え上擦る声が聞こえてくる。

「大丈夫です。親父もだてに場数は踏んで無い。こういうヤカラの振る舞いには慣れてまから、心配しないで下さい。
ただ、なぜかこの男、花にだけ執着をしているように思えるのですが、心当たりはありますか?」

『わ、分からないけど…、あの人が興味があるのはお金の事だけよ。
人にも娘にも執着はしない奴だったから。
お願い花を近づけさせないで。どうか、花を守って。』

「大丈夫です。花の事は命に変えてでも守ります。
女将も最大限の注意をお願いします。
家から決して出ないで下さい。」
そう伝え電話を切る。

次に花に電話をしようと受話器を取ると、父がやって来る。

「柊生、お待たせ。今から話をして来るから、録音と防御の準備を、後は何かの時には警察に連絡をお願いするよ。」

旅館の名誉の為には出来るだけ警察沙汰にはしたく無いが、もしもの時は致し方ない。

「後、弁護士に連絡を。」

「承知しました。」
父は足速に応接室に向かう。
柊生は壁一枚のところに立ち、中の様子を伺いながら録音を始める。

後は、花に連絡をと急ぐ。