若旦那様の憂鬱

3時から、
チェックインの業務でフロントに入り対応する。

次々に来るお客様に部屋のキーを渡し、部屋の説明、お食事の場所等を一通り伝えていく。
これを4、5人こなした後、不意に声をかけられる。

「ここに、宮本花って居る?」
ぶっきらぼうにそう言ってくる男の顔を、一瞬凝視する。

「いらっしゃいませ。
申し訳ございませんが、こちらにその様な名前の従業員はおりません。どなたかとお待ち合わせでございますか?」

にこやかに対応しながら、背中に嫌な汗が一筋流れる。

何事にも動じない鉄の心を持ち合わせていても、さすがに緊張する。

「いや違う。じゃあ、森下って苗字かもしれない。」

「申し訳ありません。森下と言う苗字の者もおりません。」
柊生は深々頭を下げて、次の展開に備える。

「あんたじゃ埒があかないから、上の人出してよ。」

男はどこかのチンピラかと思う雰囲気で、周りにいるお客様も怖がり離れて行く。

これはマズイと、思い、
「お客様、よろしかったら応接室で対応させて頂きます。」

この場で揉める事は避けたいと、機転を効かせ、個室に連れ立って場所を移す。

「こちらです。」
案内しながら、頭をフル回転させる。

花は今どこだ?
早急に安全なマンションに帰さなければいけない。

女将は今日タイミング良くお休みだ。
どちらも合わせる事は避けたい。

なぜ、この場を知られた?
なぜ、今だに花達に執着して追い求めるのか?
どこまで今の花達の情報を知っている?

柊生は得体の知れない恐怖を感じる。

なぜならばこの男は、花の実父だと確信したからだ。