若旦那様の憂鬱

花を送ってそのまま旅館に直行する。

いつもの何も変わらない朝の風景。

チェックアウトで混み合うフロントに、ヘルプで入りお客様の対応をしていく。

それが終わると落し物、忘れ物の対応をして、お客様のお見送りをこなす。

業務の伝達に、館内の修繕箇所の業者対応。
週末に入っている結婚式の打ち合わせ。
その合間に事務仕事をこなしていると、

「柊生君、変わるからお昼休憩して。」
女将にそう声をかけられるまで、時計を見る事無く働き続けていた。

「あ…気付きませんでした。すいません。
では、休憩頂きます。」

あんなに継ぐものかと思っていた仕事も、気付けば楽しくなって、意外と自分に合っているような気がしている。

休憩のため茶室に向かう。

普段使わない部屋の為、人目に触れずのんびり出来る。

それにこの部屋は唯一この旅館で花を感じられるから、俺にとっては安らぎと癒しの場所になっている。

部屋に入るとモワッとした夏の暑さを感じ、エアコンを付ける。障子を開けると真夏の日差しが眩しい。

花は今頃大学で友達とランチだろうか?

そう思いながら、花が作ってくれた弁当を開ける。今日のメニューはそぼろと卵の二色丼におかずには海老フライにかぼちゃの煮物、ほうれん草の煮浸しに、ミニトマトにベーコンを巻いて焼いたもの。

全て手作りで、忙しい朝に毎日作ってくれる。花の優しさと愛を感じなが弁当を味わう。

この時間が、仕事の間の唯一の息抜きだと言っても過言じゃ無い。

弁当を食べ終わり、最後にひっくり返して弁当箱の裏を見る。毎日ここには秘密のメッセージが書かれた付箋が貼られている。

メールや電話では無く文字で心を紡ぐ。

このメッセージは毎日、俺のヤル気にも繋がる。

『お仕事お疲れ様です。
今日は何回ありがとうを言いましたか?
柊君の何気ないありがとうが大好きです。
私もいっぱい柊君にありがとうが言いたいです。』

日々思っているだろう事を詩のように綴ってくれる。
そのメッセージをそっと剥がし、日頃持ち歩いているスマホケースに貼る。

初めて気づいた日から、
欠かさず大事に取って置いたこのメッセージは、いつか詩集が出来ると思うほど溜まっていく。