若旦那様の憂鬱

柊生のマンションに到着して、花の荷物はエントランスのコンシェルジュに頼んで運んでもらう事にする。

「僕の妻です。今日から一緒に暮らすので、今後共、よろしくお願いします。」
と、紹介されて花は緊張する。

凄いマンションだとは分かっていたけど、いつも地下の駐車場から直接部屋まで行っていた為、コンシェルジュがいてエントランスがホテルの様に、凄い事すら知らなかった。

花は思わず、茶トラのぬいぐるみを抱きしめ、唖然としながらキョロキョロと周りを見渡してしまう。

「奥様、こちらこそどうぞよろしくお願い致します。」
そう頭を下げて挨拶をしてくれるコンシェルジュは、初老な男性で、優しそうな雰囲気にホッと安心する。

「こ、こちらこそよろしくお願いします。」
緊張しながら花は挨拶をして、柊生に導かれるままエレベーターに乗り込む。

エレベーターの中、花は2人っきりになってホッとする。

「コンシェルジュまでいたなんて知らなかったよ…。私なんかがこんな所に住んで大丈夫?」
花は柊生に素直な感想を口にする。

「花は俺の奥さんだって顔して、堂々と生活すればいい。困った事があったら直ぐに彼等を頼ればいいし、どんな要望も聞いてくれる筈だ。
後、中間階にジムやプール、サウナ、ラウンジとかあるけど、1人では行くなよ。ナンパされるといけないから。」

花は目を見開いてびっくりする。

「ホテル、みたいだね……。」

上がっていくエレベーターの中、小さくなって行く窓の景色を観ながら花は、一畳一間で母と2人、怯えながら生活していた子供頃を思い出す。

あの頃の自分に教えてあげたい。

「花…さっきからコイツばっかり抱きしめてる。」
そう言って、ヒョイッと茶トラのぬいぐるみを取り上げられて、

あっ!っ、心細くなったところにグッと引っ張られて、気が付けば柊生の腕の中。

「気を付けて、俺はありとあらゆる物に嫉妬出来るから。」
そう言われ唇にチュッとキスをする。