若旦那様の憂鬱

病院に行き診察をする。

ヒビは入って無くて安堵するが、
重度の打ち身だと診断が下される。

診断書を書いて組合に出せば保険が貰えるぐらいだろうに、花はそれを拒否して出来るだけ騒ぎ立てて欲しく無いようだった。

花を抱き上げ車に乗せる。
明日、予定通り引越しさせていいのだろうかと柊生は思案する。

「柊君、明日引越しするよ。大丈夫だよ。
無理はしないから。」

「分かった…、女将さんにも話さないといけないから、今から実家に連れてくよ。」

「柊君が謝らなくていいんだからね。
柊君のせいじゃ無いんだから…。」

花はそれを1番に心配する。

柊生はいつも花の怪我を自分の事のように、
それ以上に心配し責任を持とうとする。

「ある意味、俺のせいだろう。
彼女に花を婚約者だって紹介しなければこんな事にならなかったのかも知れない。」
運転しながら柊生は自分を責める。

「そんな事無い。
堂々と言ってくれて私は嬉しかったよ。」

「牽制したつもりが…逆に仇となるとは…
女って怖いな。」
そう呟く柊生を花は思わず笑ってしまう。

「私も怖い?」
クスクス笑いながら花が聞く。

「俺の花は、女神様のように優し過ぎて、
どうしようもなく愛らしい。」

クスクス笑いながら、

「それはいい過ぎだよ。」
と花は言う。

柊生は悩む。

どうすればこの弱みを決して見せない、
気丈で勇敢な花を、癒し慰め甘えさせる事が出来るのだろうか。

これから一生かけて、
その答えを見つけ出さなければならない…。