若旦那様の憂鬱

見れば花の代わりにステージ横で候補者を見送っている。
イラっとするが、今はどうする事も出来ない。

そっと深呼吸して気持ちを落ち着ける。

残り後5名となり、花が自分の持ち場に戻って来たのを確認して安堵する。

こんなにも、俺の心を掻き乱すのは花だけだ。
と、再確認しながら早く花を連れて家に帰りたいと心から思う。 

「お疲れ様でした。審査ありがとうございます。」
二次審査会は無事に終わり、審査表を渡し控え室に戻る。

花が先に終わったみたいで、 ソファに座っている後ろ姿を見て思わず、後ろから抱きしめる。

「きゃっ…びっくりしたぁー。」
そう言って振り返る花に笑いながら、

「お疲れ様。」
と、囁く。

「お疲れ様でした。柊君はもう帰れるの?」

「ああ、後の集計は事務局が回収して後ほど合格者には電話連絡するらしい。」
花を抱きしめながら、耳元でそう伝える。

俺のなかなか離れない腕を撫でながら、花は労わってくれる。
「審査員も疲れるよね、せっかくのお休みなのに早く帰ってのんびりしよう。」

「そうしよう…。」
花の頬にそっとキスをして離れる。

「前嶋、あの後何が言ってきたか?」
気になってつい聞いてしまう。

「大丈夫だよ。ただ、挨拶交わしただけだから。」
花は苦笑いしながらそう言って、お弁当とペットボトルのお茶を2つずつ袋に入れて立ち上がる。

「これ頂いたからお家で食べよう。」

花がフワッと笑うからつられて俺も笑顔になる。
俺の騒ついていた心がそれだけでフラットに戻る。

「足は、痛く無い?普通に歩けるのか?」

「大丈夫だよ。ただの靴擦れだから。」
そう言って花は笑いながら部屋を出ようとする。
弁当の入った袋を奪い取り、出来るだけゆっくり花に合わせて歩く。

「みんな綺麗な人だったね。背が高い人が多くてびっくりしたよ。あの中から誰が残るのかなぁ?
楽しみだね。」
花がそう言う。

思えば、候補者の顔と名前をまったく覚えてないな…。

「柊君は誰が残ると思う?」

「…詩織ちゃんなんかは堂々としてたし、良いところまで行けるんじゃないか?花がお世話になってるから、少し評価に色付けておいた。」

「えっ?そう言うのダメじゃ無い?」
真面目な花が心配顔で見つめてくる。

「みんなそれぞれ贔屓してだぞ。隣の漬物屋の社長なんて、俺の姪だって周りを巻き込んでアピールしてたから。」
笑いながらそう言う。

「えっ⁉︎裏側はそんな感じなの?」

「商店街の審査員なんてそんなものだよ。」