若旦那様の憂鬱

「柊君、時間が無いから早く席に戻って。
私もストッキング変えてから直ぐ戻るから。」
そう言う花に促されて、俺も時計を見る。

後3分…。

「大丈夫ですよ。僕が見ていますからお先にお戻り下さい。」
前嶋がそう言ってくる。

それが一番心配なんだよと、つい、悪態を吐きたくなる。

「すいません、5分抜けます。会長にそう、お伝え願いますか?」

そう言って、花を横抱きに抱き上げる。

「しゅ、柊君、大丈夫だから…。」

花もびっくりしてそう言うが、ここは無視してズカズカと歩き自分用の控え室に花を運ぶ。

「しゅ、柊君、私が居なくても大丈夫だけど、審査員が居ないと迷惑かけちゃうから。」
花が心配そうに覗き込む。

俺は花を抱き上げたままの体制で聞く、
「アイツが、花に絆創膏貼ったのか?」

少し怒り気味になってしまうが、花の前で感情は抑えられない。

「ううん、自分で貼ったから大丈夫。」
花は首を横に振って、違うとアピールする。

「予備のストッキングは?」

「詩織ちゃんに貰ってる。」

「分かった、俺は戻るから。花はちゃんと整えてから出ておいで。」
軽く唇にキスをして、ソファにそっと下ろし、部屋を出る。

前嶋貴文…

俺が花の婚約者だって分かってるのにあの対応か?
ケンカでも売ってるつもりか?

絶対買うか!!

走りながらそう思う。

次の候補者がステージに呼ばれる前に何とか席に滑り込む。

すいませんと、会長に頭を下げる。

ニコニコと手を振って安堵する会長を尻目に、アイツはどこだと探す。