若旦那様の憂鬱

会場前の入り口で、
1人の男がこちらを見てにこやかに頭を下げてくる。

「おはようございます、花さん。」

花はびっくりして顔を見上げ、しばし固まる。
「前嶋さん……おはようございます。」

柊生はすかさず花の前に入り、
花を隠すように前嶋に挨拶をする。

「おはようございます。
前嶋さん、今日はどうされたんですか?」
爽やかに若旦那様の表の顔で話しかけているが、
背中から殺気を感じ、花はハラハラして見守る。

「おはようございます。
実はうちの会社も微力ながらスポンサーになりまして、準ミスの方々に国内旅行をプレゼントさせて頂く事になりました。

僕はボランティアでお手伝いさせて頂きますので、よろしくお願いします。」 
そう言ってニコリと笑う。

前嶋と言う男、一筋縄ではいかない相手だと柊生も重々知っている。

どちらかと言うと、自分と似たタイプだと思っているからタチが悪い。
しかし、花をみすみす手渡す訳にはいかないと守りの体制に入る。

「若旦那さんは、今日は審査員で呼ばれたそうですね。お仕事外でもいろいろ大変ですね。」

「いえ、少しでもこの商店街に貢献出来ればと思ってまして。
花、裏の方の手伝いに行っておいで。」
花にそう促し、前嶋との接点を断つ。

花はペコリと頭を下げて、

「失礼します。」
と、足早に裏手の控え室の方へ去って行く。

2人の男はその後ろ姿を目線で追う。

「実は…つかぬ噂を耳にしまして…」

来たか、と柊生は内心思い構える。

「花さんは妹では無く婚約者だと伺いまして、びっくりしているんですが。
聞けば、幼い頃からの許嫁だったと…。」

「ええ、花の母とうちの父は再婚同士でして、その時に花は養子では無く許嫁として、我が家に来たんですよ。」
涼しい顔して、柊生はうそぶく。

普段誠実に生きている男だが、
花を守る為なら嘘も方便だと思って割り切っている。