それから一週間ほど月日は流れ、

花と柊生は順調に恋人としての距離を縮めている。
週末には2人で結婚指輪も見に行った。

結婚するんだ。

と、花もだんだん現実味を帯びてきて、
身が引き締まる思いがする。

そして、今日。

ちょうど大安と休日が重なった為、
祖母の家に2人揃って挨拶に行く事になっている。

前日に祖母には大事な話があるからと
前もって柊生は連絡を入れておいた。

「ちゃんと着物を着て行った方がいい。」

父からアドバイスを受け、
柊生は紋付袴、花は祖母から譲り受けた振袖に再び袖を通した。

祖母は何より礼儀作法を重んじる
昔気質の厳格な人だった。

「まさか、1ヶ月も経たないうちにまた振袖を着る事になるとはね。」

母は花に振袖を着付けながら考え深げに言う。

「お母さんとお義父さんが結婚する時も、
こうやって挨拶に行ったの?」
花は聞く。

「そうよ。なんせ子供付きのバツイチでしょ?
大女将になんて言われるか分からなかったから、ビクビクして行ったわ。」
母は笑いながら言う。

「…なんて、言われたの?」
花は不安そうに聞く。

「子供達は賛成してるのか?
世間様にどう伝えるつもりなんだ。
これから、女将として一橋の恥にならない様に誰よりも精進しなさいって。」

「怖かった?」

「身が引き締まる思いがしたわ。
頑張らなくっちゃって、奮い立たせてくれた。」

「お義父さんは何て言われてた?」

「子供達の為に、この時期に後妻を娶るのはどうなんだって咎められたわ。
柊生君が高校生で、康生君が中学生、花が小学生だったから果敢な時期にいきなり他人と暮らす事になる子供達の事を思ってくれたのね。」

「直ぐには許してもらえなかったの?」

「まず子供達からの信頼を得なさいって、
父として母として認められるまで籍は入れては駄目だって言われて、
一緒に暮らしながら籍を入れたのは1年後だったの。」

「そうだったんだ…。」
花は当時まだ子供で、大人の事情なんてまったく知らなかった。

「正俊さん、花についても言われてたわ。
自分の子供以上に花を大切にし愛しなさいって。」
そう言って、母はにこやかに笑う。

「花は?あの頃からお義父さんに愛されてると感じてる?」

「もちろんだよ。
お義父さんが1番私の進路について、
親身になって聞いてくれたし、
好きな事を見つけなさいって、
いろいろ習い事もさせてくれた。」

あの頃ピアノに憧れがあった花は、
ピアノ教室に通いたいと思い切って相談した時、自分の事の様に喜び、
親身になって教室を探してくれたのは義父だった。

「ちょっと過保護なくらいよねぇ。
柊生君もだけど、みんな花にとっても甘いわ。」

花が笑いながら、
「だから大丈夫。柊生君を信じていれば、
花は愛されてる。幸せになれるわ。」

花はこくんと頷き、部屋を出る。