次の朝、
柊生は目覚まし時計の音でパッと目が覚める。
昨夜遅く、寝付けず花に電話をしていたはず。
いつの間にか寝てしまっていた事に気付く。

しかも目覚めも良くスッキリしている。

柊生はいつに無く、爽やかな朝を迎える事が出来た。

ヤバいな…花の声。
安眠効果抜群だ……

癖になりそうだな、と思いながら顔を洗い、
毎朝のルーティンであるジョギングに出かける。

今朝は頭も冴えていて、
まるで昨日とは違って世界が輝いて見える。

走りながら柊生は考える。

これは、花の心が手に入ったせいか?

先週までのモヤモヤした心の霧が、
綺麗さっぱり取り払われたせいかもしれない。

花をちゃんと自分のものにするには、
まだまだ幾つかの障害はあるけれど、
焦らず確実に対処していこうと心に決める。

戸籍の事もそうだが、
気になるのは花の本当の父親の事。

女将と親父からは結婚する時に、
簡単な経緯は聞いていたが…。

ここまで酷い男とは思わなかった。
花の話しを聞いて、怒りが湧いた。

自分の娘に狂気を向けるなんてもっての他だが、一生残るような火傷まで刻むなんて…

普通の人間がやる事では無い。

女将さんが花を連れ、必死に逃げた気持ちが痛い程分かる。

無事にここまで辿り着いて来てくれて、
本当に良かったと心から思う。

もうこれ以上、花に辛い思いはさせたくない。
2度と近付けさせないようにしなければ、
花も女将さんも本当に幸せにはなれないだろう。

それには、早めに父に話をして花との事を認めて貰わなければ始まらない。

祖母の事もそうだ。

かつては大女将として、
一橋旅館を引っ張り、ここまで保持できているのは、彼女の功績が大きいだろう。

昔気質で、筋の通っていない事を嫌う。

今は優雅にのんびりと、生花を教えながら
一人暮らしを満喫しているが……。

妹と言う立場の花を嫁に貰いたいなんて言ったら、
 
卒倒するかもしれない…。

そのくらいならまだいい方だ。

張り手の一つは飛んでくる覚悟で臨まなければいけないかもしれない。