若旦那様の憂鬱

それでも、
柊生の怒りは収まらないが…

花の為にも良くないと、無理やり心を落ち着けて、柊生は深いため息を吐く。

「…俺が花に宥められてどうするんだ…。」
そう呟く。

やっと抱きしめ合っていた腕が解け、
お互いの顔を見つめる。


「花、この先、そいつがもしも花の前に現れたとしても、花には指一本触れさせないから、覚えておいて。花は俺が守る。」

熱い真剣な眼差しで、柊生の思いが花にも伝わる。

「ありがとう、心強いよ。」

花も涙で真っ赤になった目で、
微笑みを取り戻す。


「あっ……柊君、
私、バイトが5時からあるんだった…。
こんな顔じゃ行けないから、
ちょっと顔洗わせて…。」
そう言って、柊生の膝からそっと降りる。

こっち?と指を挿して聞いて来るから、
柊生も重い腰をあげ、花の手を取り洗面所に連れて行く。

顔を洗って、タオルを濡らして目を冷やす。

「…バイト、今日は休めば…。」
無駄な抵抗だと分かりながらも、
柊生は花に言う。

「無理だよ。他の人に迷惑かけちゃうから…。
柊君に話したらなんかスッキリした。
私はもう大丈夫。
…柊君の方が心配だよ。」

花は明るく笑う。

「じゃあ……、
せめて送らせて、帰りも迎えに行くから実家まで送る。」
柊生がそう言う。

「えっ!そんな大丈夫だよ。
柊君は体を休めて、明日も仕事早いんでしょ?」
花は遠慮して恐縮してしまう。

「今日だけは…、
俺のわがままだと思っていう事を聞いて欲しい。」

仕方なく花はこくんと頷く。