若旦那様の憂鬱


「ごめん。どんな表情をしてるのか気になったんだ。」
柊生が優しく頬を撫ぜてくる。

今、話すべきだと花は覚悟を決め、ポツリポツリと話し始める。

「私の…お父さんは……お酒を飲むと暴れるような人で、お母さんが怪我をする事もたびたびあって…。
私が3歳を過ぎた頃に、離婚届を突きつけて
私を連れて実家に逃げたの。」

柊生は静かにこくんと頷き、話の続きを促す。

「私はあまり覚えてないんだけど…最後の方は本当に酷くて…いつか殺されるんじゃないかって…怯えて暮らしてたって。
母は離婚届けに印を押してもらったら、私を連れて逃げようって決心したみたい。」

柊生は花をぎゅっと抱きしめ直す。

「それで…、
逃げようと決心した日に……運悪くその男が帰って来てしまって、母は私を急いで押し入れに隠したんだけど…。」

そこで、花はひと息ついて柊生の顔色を伺う。
唇を噛み締め辛そうな顔をしているから、この先を話すべきか躊躇する。

「…それから?」

しばらく間があり、柊生が先を話すようにと花を促す。

「それから…母は酷い暴力を受けて……押し入れにいる私は…見つけ出されて…
…火傷を……。

その泣き声を聞いた近所の人が、ただ事じゃないって、警察に連絡してくれて何とか無事に逃げられたの。」

「その男が捕まったその日、母は私を連れて着の身着のまま実家に逃げて、その後、三年くらいはお婆ちゃんと一緒に生活した。

だけど…男は刑期を終えて、私達の居場所を見つけ出しまた追いかけてきた。

実家には居られなくなって…2人で違う土地に行ってそこで、母は住み込みの仕事を見つけて、三年くらいは平和に生活したんだけど、また、見つけ出されて…
……この街までやって来たの。」

……初めてこの話を口に出して話した。

小さかったから、覚えているのは恐怖心だけだけど、
花の体が震えて止まらなくなる。

小刻みに震える体を自分でもどうしようも出来なくて…

柊生がぎゅっと抱き締めて背中を優しく撫ぜてくれる。

「思い出させてごめん。辛かったな…ごめん。」
柊生がひたすら抱き締めなが誤ってくる。
そんな柊生も震えている事が花に伝わる。

花は首を横に振り大丈夫だと伝える。