若旦那様の憂鬱

「ただいまー。あれ?兄貴来てるのか?」

突然。陽気な声が聞こえて康生が帰って来た。

「お帰り…。」

「なんだなんだ?
やけにお通夜みたいな辛気臭い空気じゃん。
うん?
花、指どうした?
ぐるぐる巻きじゃん!」
普段から能天気な康生だが、流石に驚き花を見る。

「これは…、大した事ないよ。
柊君が大袈裟に巻いただけで…ちょっと切っただけだよ。」

「いや、ちょっとじゃ無いだろ…。
花のパジャマ…血だらけじゃん…。」
康生がそう言うから、

えっ?っと自分の着ているパジャマを見て、今更ながら驚く。

「やだ!どうしよう…、
これ落ちるかなぁ。
お気に入りのパジャマだったのに…。」

「…心配なのはパジャマかよ…。」

柊生は呆れたように呟いて、

空になったお皿を持ってビーフシチューをお代わりしている。

「おっ!
ビーフシチューじゃん。俺も食べようかなぁ。」
そう康生が言う。

「もう、こんな時間だし食べてきたかと思ったよ。」
花が時計を見ると9時を回っていて内心びっくりする。

花は康生の為に、ビーフシチューをお皿に注ごうと思ってお鍋に近付くと、

柊生にすかさずお皿を奪われて雑に注いで康生に渡しながら、

「しばらく花は、手がこんなだし何も出来ない。せめて、自分の事は自分でやれ。」
そう康生に言う。

「…分かったよ。
しばらく花の手料理はお預けかぁ。
食べられ無いと思うと無性に食べたくなるよな。」
康生は花の横の席に座り、大口でビーフシチューを食べ始める。