花の見合いの日。

朝から落ち着かず、年甲斐も無くソワソワしてしまう。
俺がバタついたところで何も変わらないけれど…。

出来れば会ってほしく無かった。

前嶋貴文、大手旅行代理店の御曹司。
今の肩書きは営業部長だったか……。

腹の中が見えない、
何を考えてるか分からない奴。

まぁ、俺もそうだが…

本性が分からない所が我ながら似た者同士だと思っていた。

何となく同じ匂いを感じ、
お互い必要以上に近寄らないようにしていた。

10歳も離れた男が何で花を指名するんだ?

一瞬、俺への当て付けか⁉︎

とも思ったが、そんな事をしてもお互いなんの得も無い。と、思い直す。

花を信じて待てばいい。

だが…花はまだ若い…、
好きだと言われるとコロッと流されるか?

不安が拭い切れず朝から一喜一憂する。

思えば俺の人生は、花によって動かされていると言っても過言じゃ無い。

花に合う前まで、
俺は若旦那と呼ばれる事にうんざりしていて、いつかこの家を出て行ってやるんだと心の中では思っていた。

大学を卒業するタイミングで花が妹になって、何故かここから離れたく無いと思った。

出来れば、
花の成長を1番近くで見ていたいと切望した。

気付けば嫌だった若旦那になって、
兄として彼女の側に居続けた。

この切ない恋心に気付いた時には苦しくて、
辛くて、離れなければと何度思った事か…。

だけど、今となっては旅館の仕事も意外と楽しくなってきた。
それに、花も手に入れる事が出来たのだから、良かったんだと思う。