先輩。言い方ってものがあるでしょうに。本当に。

 「あ、あの編集長。金曜日だそうと思っていた二本の記事。もう、飯田さんが書いてしまいましたか?」
 
 「……いや。まだだ。」
 
 「私、仕上げてあるのでよかったら見て頂けますか?使えるようなら使って下さい。結構ちゃんと取材して考えて書いたので、なかったことにするのは私もつらいんです。」

 編集長は優しい目で私を見つめた。
 
 「平野さん。では拝見して、訂正が必要なら入れさせてもらう。その上で、できるようなら君の名前で記事を掲載させてもらおう。卒業記念としてね。残念だよ。君はこれからだ。飯田が君の記事を使うのは君の方が自分より書けていると認めているようなモノなんだよ。私は部下の育て方が下手だな。自分が書いているウチはよかったが、編集長の椅子は分不相応だったようだ。」

 榊さんに目を移すと話を続けた。
 
 「榊君。忠告心して受け取ったよ。平野さんを頼む。君なら彼女を更に飛躍させられるだろう。」
 
 「お任せ下さい。彼女の基礎は編集長が作った。その上の所は私が担当させていただきます。彼女を今月付で退職とさせて下さい。後は有休消化ということで。出社は今日まででいいですか。」
 
 「わかったよ。平野さん、では記事と身の回りの片付けをしてきて下さい。周りには何も言わないで。私からあとで周知させると言って下さい。」
 
 私は、お辞儀をして先に会議室を後にした。

 「三橋さん。失礼しました。ご指摘の通り、ここ数年自分で取材に出る時間もなくて、お恥ずかしい限りだ。私を信用して預き、彼女を預けて頂いていたのに、申し訳なかった。そうか、彼女が貴方の大切な人ということは、いずれ?」
 
 「そうですね。いずれグループ総裁の妻となる予定です。」
 
 「……そうでしたか。彼女は外側はふんわりしているが、中はしっかりしている。実はそういう社交界も向いているかも知れないね。結婚式には是非招待して下さい。楽しみにしています。」
 
 「そうさせて頂きます。私も初対面で年上の編集長に失礼を申し上げてすみませんでした。奈由のことになると、自制が効かないこともあってお許し下さい。これからも私達グループをよろしくお願いします。」
 
 達也は編集長に頭を下げた。
 編集長は驚いて、立ち上がると同様に達也に頭を下げた。