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真夜中のバー。

半年も前。

淡い光に包まれた静かなバーで,俺は酔っていた。



『お客さんの様な男前でも,結婚に苦労するんですねぇ』

『そもそも寄り付かねぇ。マスターは?』

『ははっ私ですか? もちろん秘密です。けれど,妻子持ちでして……この間2人目の娘が成人致しました』

『それはおめでとう』



そして,愚痴を溢した流れで,お互いの恋愛の話になる。



『結婚どころか,恋愛の経験1つねぇ。その結婚だって親がうるせぇだけで,本気で俺がしたいわけでもねぇ』

『なるほど』



僅かに目を見開いたマスターは,直ぐにスマイルを取り戻した。



『顔,性格,中身,所作……まぁ色々あると思うんだが,自分の好みも分からねぇ。どいつもこいつも同じだろ』

『そんなことはないと思いますが……タイプ1つ無いとは,中々ですねぇ。失礼ですが,今おいくつで?』

『27。つっても来週で28だけどな』

『おや……おめでとうございます』



そして俺は,寝た。



『……困りましたねぇ。明日も仕事でしょうし……』

『マスター,俺が送るよ。その人,タクシー詰め込んで家まで見届ければいいんでしょ?』

『ですが……』

『大丈夫だよ。俺もこの人もしょっちゅう来てる常連じゃん。少ししたらフラッとこの人も来るはずだから,そんとき確認してよ』